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なめらかな世界と、その敵

SF短編集。シリーズじゃない、しかも短編の日本の作家のお話って、そういえば少ない。

ツイッターで、「ひかりより速く、ゆるやかに」の冒頭部分だけ公開というのが流れてきていて、けっこう気になっていました。
で、最近 読んでいる「年刊日本SF傑作選」の2011年版「拡張幻想」に、「美亜羽へ贈る拳銃」が載っていて、これが、良かった。

小説としては、ものすごく読みやすくて気持ちいい。だから、読後感とかは、ものすごく新しいものを読んだというよりも、そうなるべきところに落ち着くものすごくオーソドックスなものを読んだ感が強いです。新鮮よりも、爽快さ、納得感、格好良さが凄い。
それが、SFのガジェットの面白さとがっちり組み合っている感じです。SFのガジェットの方は、ハードな設定というよりは、こんなシチュエーションならどうなるのという「if」的です。

ラストは、特に読み終わった後、想定の範囲内だなあと感じることが多いかも。
例えば、表題作の「なめらかな世界と、その敵」だと、結末、若干拍子抜けしました。圧倒的に若いわ。でも、それ以外は、ありえないよねぇというラストです。だから、想像しなくても、おさまるところにおさまった感があるので、後付けで「やっぱりこうなったか」と思っちゃうという気もします。

「ひかりよりも速く、ゆるやかに」と「美亜羽へ贈る拳銃」は、リリカルな感じが強くて、SF書きであると同時に作者が強烈に小説家であるなあと感じさせます。
まあ、「ゼロ年代の臨界点」みたいな、強烈なやつもあるのですが。これ、何かのパロディですよねぇ。どっかで聞いたことがあるような話だ。

思わず声に出して読みたくなる格好いいフレーズというのがあって、「美亜羽へ贈る拳銃」のラストのフレーズは、それです。
「翼あるもの」の「As Tears Go By」のラストフレーズに匹敵する格好良さです。

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栗本薫・中島梓傑作電子全集2 真夜中の天使

真夜中の天使

マヨテンですな。
基本、小学校高学年で竹宮惠子とか、萩尾望都とかを読み始めてから、まったくこの手のことに抵抗がなくなりました。
で、栗本薫のこの手の話も、その流れで読みました。
正確に書くと、最初に挑戦したのは、「翼あるもの」の上巻でした。
多分、表紙が竹宮惠子だから、読もうと思ったんです。その時、すでにグイン・サーガは、読み出していたのでは無いかな。
それが、中学生の時だと思います。図書館で借りて読んでたので。

まあ、気合の入ったまえがきも読んで、読み始めたのですが、あんまりおもろくなくて、けっこう初めの方で挫折しました。
ものすごく文体が硬く感じて、読みにくかった。

で、それからも、栗本 薫を読み続けて、多分、大人になってから文春文庫で「真夜中の天使」を読みました。

これが、メッチャ面白くて、続けて文春文庫から出ていた「翼あるもの」も読んで。みたいな感じで、栗本薫なら、JUNE系だろうがなんだろうか、なんでも読むようになって今に至っています。マルガ・サーガも読みました。あれ、怒る?本編でも、充分、あんな感じだったじゃんと思ってます。

まあ、それはさておき。
今回の再読は、アレクサアプリに読んでもらって、車の中で聞いたのですが、やっぱりおもしろかったです。
わたしが初めて読んだ文春文庫版は、30章の物語が10章ごとに上・中・下と別れていたのですが、この全集では、15章ごとの上下巻に分かれています。
「翼あるもの」は、上巻と下巻が、全然違う話なんだから、別れてていいと思うけど、なんで、「真夜中の天使」で別れているんだと最初は思っていました。でも、これも、意味があったことが分かりました。
上巻最後の15章で幸せの絶頂に達して、下巻の16章目からはジェットコースターみたいに落ちていく。そういう構造なんですよ。

アレクサアプリに読ませるときは、今は栗本 薫と平井 和正を交代で読んでいて、まあ、栗本薫全集は1冊が長いので、キリの良いところで平井和正にチェンジして、平井和正1冊読み終わったら、全集の続きに入るようにしているので、上巻が終わったら、平井 和正にチェンジしようと思っていたのですが、まあ、おもしろすぎて、そのまま一気に聞いてしまいました。

いやあ、昔読んでたときには、結城ってヒゲのダンディは、ちっともカッコよく思わなかったけど、今見ると、けっこうかっこいいなぁとか。結末がどうなったかとかは、全然、覚えてなかったので最後まで、ドキドキしながら読んでました。
わたしは、あんまり人への執着というのが薄かったりするので、だからこそ、こういう話に惹かれるのかもしれません。

誰かの「特別」であるということは、どういうことなんだろう。

そのテーマは、ちょっと「レダ」につながっていて、また、グイン・サーガのグインの苦悩とかにもつながっているんだなあと感じました。そして、「終わりのないラブソング」にも。
今まで、栗本薫って、いろんなジャンルの小説を書くから、あんまり芯になるようなテーマってないのかなぁと思っていたのですが、どの話にも、コレが通っていたのかと発見できた気がします。

ただねぇ、キンドルアプリには、読めない漢字がありましてですねぇ。
「嫌い」って、読めないんでよ。

だから、「滝さんなんか、嫌いだ」のところは、「嫌」を抜かして、「滝さんなんか、いだ」って読みます。
そして、この小説、けっこう「嫌い」って、言葉よく出てきます。

「イーだ」って、あんた子どもか?

そして、「翼あるもの」では、更なる悲劇が。

翼あるもの

ということで、上巻「生きながらブルースに葬られ」は、最初は挫折しました。
文体も硬いし、なんにも起こらないですしねぇ。芸能界にも興味がないし…。

で、文春文庫版の「真夜中の天使」を読んだ後、もう1回挑戦したら、読めました。
でも、「真夜中の天使」にくらべたら、それほどおもしろいとは思わない。

ですが、下巻の「殺意」は、メチャクチャ面白い。

実は、執筆順は、

「生きながらブルースに葬られ」
「真夜中の天使」
「殺意」

という順番だったらしいです。この順番に、どんどん物語が面白くなっていきます。そして、栗本 薫自身が、どんどん上手くなっていくのがわかります。

どうなんだろうという表現ですが、「文学」がどんどん「エンターテイメント」に変化していく感じといったら伝わるかな。
わたしの読みたいのは、「エンターテイメント」なのよ。という感じです。だから、文学よりなのが好きな人は、もしかしたらわたしと評価は逆になるのかも。

「生きながらブルースに葬られ」の面白くなさというのは、やっぱり、この今西良が、あまりにも、いい子ちゃんで、しかもいつも誰かの視線越しにしか出てこないからだと思います。
主人公、全然、今西 良と違うやん。魅力があるのなら、この子の内面を覗いてみたいじゃないですか。それなのに、そこは、全くわからない。初めっから、「選ばれている」。

「真夜中の天使」の今西 良は、「翼あるもの」の今西 良と森田 透が、合わさったような存在です。
内面は見えないけど、良い子ちゃんではなくてミステリアスです。どこか、毒もある。

「殺意」の後半は、今西 良の鏡像である森田 透の物語です。
これがどんどん森田 透の内面に潜っていく感じで語られます。
2つ目の「As Tears Go By」が終わった後に思わず、

「かっこいい」

とため息が出ました。

時々、栗本薫って、こういう神がかったフレーズを書くよねぇ。
絵になる。
もしかしたら、見たことがあるような。とか、陳腐な。と言われてしまうかもしれない。
でも、バッチリ決まったシーンです。

その以降の話は、全部、こんな感じで「決まっている」のです。

開放してくれることのない光の夢は、この日、かれらを見逃していた。身をよせあって歩きながら、かれらは、それがどこまでもつづく道路である夢だけを見ていた。

もう、悶絶するほど格好いい。

さて、「翼であるもの」でも、やっぱり「嫌い」はけっこう出てきて、「い」としか言わないのですが、さらに読めない字が「巽」。
おーい、「生きながらブルースに葬られ」にも「殺意」にも出てくるメインキャラの名字やで。

「巽さん」は、全部「さん」だけになります。せめて読めなかったら、一拍あげるとかしたらいいのですが、それもしません。
まあ、そうして、事故ってギャグみたいになっても、面白かったです。

続・翼あるもの

こんなものがあるとは、知らんかった。
「The END of the World」という題名の短編。

島津は、

「そんな気がする」

とか言って賢すぎて、どこか、人を好きになれなかった場合の伊集院 大介かなぁと感じたりしました。
多分、スターシステムとってたら、同じ俳優がするんだろうなぁと思った。

そして、島津自身も透とかかわることで変わっていく。なんか、それには「夢」もあると思います。