それぞれの痛み

森下裕美,読書

大阪ハムレット1

森下裕美は、「少年アシベ」や、「ここだけのふたり」のように、毒を薄めて一般ウケするマンガがかける人です。もちろん、そのなかで、「そうとしか生きられない人間」をいれていくことで、オブラートに包みながら、いろんなメッセージを込めていく。

でも、それは伝わりにくい部分もあったのかもしれません。でも、いろんな人に読んでもらうという意味では、あのかわいらしい絵柄は、とても、武器になっていたと思います。

「大阪ハムレット」は、今まで武器にしていたもの、特に「かわいい女の子」が、使われていません。
女の子の顔をソーランアレマみたいに記号的な「美人」に描くのは、この人にとって、きっとそれほど大変なことではない。でも、あえて、今回は、そうではない絵柄を選んでいます。
なんだろう、今回の絵柄と「アシベ」の絵柄の1番の違いは……鼻があることかな?
それでも、けっして「美人」ではなくても、「魅力的」に人を描くことに成功していると思います。

以下、ネタバレありです。


例えば、宏樹がアキおばちゃんに向ける視線。素敵に見えるというのは、人の外見だけのことではないなぁとよくわかります。

だから、武器を捨てでも描きたかったこと、捨てないと描けなかったことがあるのだろうなと思います。

「大阪ハムレット」には、今までのかわいい森下裕美ではかかれなかった、生の感情がかかれています。

アキおばちゃんは、見る人が見たら、すぐに病気の名前がわかってしまう。そういうリアルなかき方がされているし、「名前」や、「恋愛」の相手に嫌われないかという不安、痛み、どれもけっこう、きついものです。
もちろん、大阪という舞台設定、どくどくの話の運びで、優しく包み込む雰囲気で、重くはなりすぎないのですが……。

そういえば、「少年アシベ」の絵柄になる前、「23のさかな」という不思議な物語を森下裕美はかいていて、ふっと、それを思い出したりしました。