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世界の果ての国へ 安房直子コレクション6

これは、わたしの知っている安房直子とは、ちょっと違った感じの物語集です。
喪失感とか、どうしようもないあこがれの気持ちとか、そういったところは、安房直子なのです。それらの感情や、そこに映し出される異界をガラスごしに眺めている印象があるのが、わたしの知っている安房直子の童話なのです。
でも、この本に書かれている作品では、実際に、その世界にアクセスしてしまう。しかも、帰ってこれなくなっちゃうのです。
そして、その話が、教訓めいていないだけに(多少は「欲張りすぎ」とかあるのですが)、よけいに淡々としていてこわいです。

鶴の家

死んだ人の数だけ、お皿の鶴が増えていきます。
これは、けっこう怖いです。

最終的には、ハッピーエンドなのですが、なんか、怖さは後に残ります。

というか、ハッピーエンドはあんまり後に残らなくて、怖さはあとにひいている感じです。

日暮れの海の物語

さて、カメから逃れることができたのですが、

「わたしはかめを裏切った……。」

と、心に思い続けながら生きていくのが幸せであったかどうか。

長い灰色のスカート

あっちにいってしまうのは、怖いとともになんか甘美な感じもします。
これは、この本に収められていく作品のほとんどに共通する雰囲気です。

神隠しにあいやすい子に対するあこがれが、自分のなかにあるようです。

木の葉の魚

ちょと、金子みすずの詩を思い出してしまいました。
こうやって、網にかかる大量の魚たちが、みんなこんな物語をもっているとしたら……。怖いですねぇ。

奥さまの耳飾り

「魔法というのは、悲しいものだ。」

どこかに、この考えがつねに潜んでいるのかもしれません。
そして、恋愛も、魔法のようなものなのでしょうか。

野の音

人さらいの話です。
そして、なぜか、さらわれたくなるような弱さ、ここではないところに生きたくなる弱さを人はもっているんだと感じさせられます。

青い糸

これも、誘われて、行って、帰ってこないお話です。
女の子が、男の人を連れて行きます。

男の方が、さそわれやすいのかもしれません。

火影の夢

これも、女の子が、男の人を連れていく話です。
幸せだった過去に戻ったのだから、もしかすると幸せかもしれない。

そう感じながらも、なんか、ゾッとするような印象も残るのは、なぜなんでしょう。

野の果ての国

悪夢のみせた幻でしょうか。
それとも、本当にあったことでしょうか。

それは、多分それは、それぞれの読者の判断ということになるのでしょう。

銀のくじゃく

夢なんか追いかけるから…。
でも、夢を追いかけずにはいられない。
それが、滅びにつながっていても。

そんなお話です。

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恋人たちの冒険 安房直子コレクション5

恋愛ものです。
そして、見事なほど全部、異類婚のお話です。5話全部。

このあたりの感性が、わたしを惹きつけるんだろうなぁと思います。
まあ、もっといろいろな恋人達の作品はあるんだから、わたしと感性があったのは、安房直子さんではなくて、編者の人かも(笑)

それでは、1話ずつの感想です。

天の鹿

鹿と少女のお話です。

少女の父親は、猟師で鹿撃ちの名人です。

でも、鹿がこの家の人にもっているのは、不思議と恨みとかそういうのではないんです。ただ、おぼえていてほしい。そんなことを思っているという。

なんだろう。怖さも、とこかにちょっとあるのですが、それ以上に、自然の持つ懐の深さみたいなものを感じさせられます。

熊の火

若者と熊の娘さんの話。
動物の方が女の子の話もありますが、熊というのはけっこう珍しいかも。

これは、もう戻れないという感じの強いお話で、ちょっと「きつねの窓」を思い出しました。

孤独の陰に、ファンタジーがあります。

あるジャム屋の話

若者と鹿の娘さん。
この鹿の娘さんが、絵が上手だという。

椅子にこしかけている牝鹿ってどんなんだ?どんどん、擬人化が進んでいるようでいて、でも、鹿の形をしているようで…。
だって、人間にならないといけないんですからねぇ。

「鹿のまんまで、よかったんだよ。」

と、この言葉にたどり着くためのお話だったんだと思います。

鳥にさらわれた娘

これはなんだか、遠野の昔話を思わせるような話です。

鳥にさらわれて、逃げ帰った娘。
でも、鳥の優しさもしっていて、自分から戻っていく。

まわりから見れば、魔物にかどわかされたように見えますが、本当の幸福は、自分自身にしか見えません。

べにばホテルのお客

かわいい話です。

以下、ネタばれありです。

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まよいこんだ異界の話 安房直子コレクション4

ハンカチの上の花畑

タイトルから、「知ってる話だ」と思って読んだら、全然、展開が違っていました。
よく思い出してみると、きっとわたしが思っていたのは、「北風が忘れたハンカチ」だったのだと思います。

ちょっと、こわい話ですよねぇ。
でも、あんまり、「欲をかいてはいけません…」とか、「嘘をついてはいけません…」とか、教訓めいた感じではありません。
奥さんが、小人たちにプレゼントするとなんかも、自分の欲ではなくて、すごく自然な感じです。

でも、自然の流れとして、そうなってしまうんだなぁ。そういう風にできているんだなぁ。と何となく思ってしまうお話です。

素敵なマイホームにあこがれる気持ちなんかは、きっと、作者自身も思っていたんだろうなぁと…しみじみしてしまいます。

ライラック通りの帽子屋

これは、好きなタイプの話ですねぇ。
そして、のキレイに行って帰ってきます。

若い頃のお父さんとお母さんのエピソードが、なんとも、素敵です。

その気持ちを忘れずにいられるといいのですが……。

丘の上の小さな家

なにかを手に入れるためには、なにかを手放さなければならない。
たとえばこの物語の中では、手放さなければならなかったものは、「時間」。

でも、どちらの選択がよかったかは、わかりません。
そして、わたしたちは、今の選択を生きていくしかない。

それならばやっぱり、今の選択に肯定的でありたいけれど……。

最後は、オチになってないと思います。
でも、ちょっとわたしは泣いてしまいました。

また、安房直子の作品の中で、好きなのが増えた。

三日月村の黒猫

今回の本は、「異界」がテーマの話を集めてあるわけですが、職人さんのというテーマも、けっこう大きい気がします。

童話自体が、職人さんを主人公にすることが多いということもあると思うのですが、人にできないことをやれる職人さんは、どこかに秘密をもっているような気がするのかもしれません。

これも、「丘の上の小さな家」と同じように、異界にいって技術を習得して、習ってくるお話です。
そして、そのために、選択する。

実は、最後のオチは、この物語にとって必要ないのかもしれない。そう思うぐらい読んでいる間、不思議な時間がもてるお話でした。

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ものいう動物たちのすみか 安房直子コレクション3

きつねの夕食会

最初、読んだ時は、オチは好きだけど、できはどうだろう?

というような感想でした。
けっこう、好きなオチではあるけど、電気屋さんがでてきたところあたりから、もう読めていたし…。

でも、子どもたちの前で声に出して読んでみて、ちょっと、印象がかわりました。

安房直子さんの作品って、どれぐらいの年齢の読者に向けて書かれているのかわからないところがあるのですが、この作品は、かなり明確に、「子ども」を意識して書かれているような気がしました。

子どもはねぇ、すごく楽しく聞いていました。

ねこじゃらしの野原 とうふ屋さんの話

小さい小さいところにも、丁寧な世界があるんだよというそんな感じの連作です。
オチといえるオチはないんだけれども、妙に、ふむふむとうなずいてしまうようなお話です。

山の童話 風のローラースケート

「ねこじゃらしの野原」は、人物を中心に広がっていく連作でしたが、この「山の童話 風のローラースケート」は、世界が広がっていく感じでつながる連作です。

安房直子の作品は、わりと1話完結のものしか読んだことがないので、これは、すごく興味深かったです。

森の優しさ、ふところの深さだけではなくて、森野怖さみたいなものもちゃんと書かれていて、それが、また森の風景を魅力的にしています。

特に「花びらづくし」は、出だしから、思いがけないラストまで、すごいドキドキしました。

陰と陽の両方が、しっかりと入っているファンタジーというのは、素晴らしいものです。

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見知らぬ町ふしぎな村 安房直子コレクション2

1巻目の感想を載せたのが、9月ですねぇ。
で、その直後から2巻目を読み始めたはずですが、今までかかったのは、途中で思いっきり修羅場をはさんでしまったせいですね。

1話ごとの感想も、読んだ直後には書けなくて、かなり後になってから、書いたものになってしまいました。
それでも、1話ごとに感想を書いていくのが楽しいのは、やっぱり安房直子さんの作品が好きだからなんでしょうね。

魔法をかけられた舌

こういう単純な不思議さが好きです。
こんな魔法なら、わたしたちの周りにけっこうあるのではないかと思えてきます。

空にうかんだエレベーター

ライナスの毛布のように、ギュッとウサギを抱きしめる女の子。

ウサギと女の子の間に、どんな物語があったかは、けっして誰にも気づかれない。
ひぐれのお客
すごいさり気ない話です。
ほとんど、ストーリーなんてない。
でも、

「色っていうのは、ふしぎなものだな。」

というのは、安房直子さんの色に対する感じ方の深さをきっと表していて、やっぱり、読んでいる方も、しあわせな気分になるのでした。

ふしぎな文房具屋

大好きなネコと別れなければならないのは、いつだって耐えられないぐらいにさみしいものです。

でも、人はネコと暮らすことをやめられない。

そして、想い出を蓄積させていく。

なんでも吸いとる吸いとり紙も、「想い出」までは吸いとらないのでした。

猫の結婚式

ますむら・ひろしさんの画集かなにかに、

「家出したネコは、時々、手紙を書いて欲しい…」

みたいな文章があったのを思い出しました。

突然、家からいなくなったネコが、こんな風にしあわせであってくれたら、わたしたちは、どんなに安心することだろう。

そういう優しいお話です。

うさぎ屋のひみつ

なんか、奥さんも、うさぎ屋も、ちょっとモラルが壊れていて、オイオイと笑ってしまいました。

そして、安房直子は、自分の物語のなかに、いろいろな願いは入れても、「教訓」みたいなものは入れたくなかったのだなぁという気が少ししました。

青い花

人は、忙しさ、そして、収入が入ってくることを「しあわせ」だと思いがちだけど…。

もちろん、それがしあわせの1つの形であることは、否定できないです。
でも、別の形もあるのかも。

わたしは、ホッとするような生き方ができるといいなぁ。

遠い野ばらの村

なんていう優しい話だろうと思います。

童話のなかの無垢な動物たちは、さびしい心に感応するのかなぁ。

そして、優しい嘘は、つき続けることが出来ればきっと、最後には本当になるのでしょう。

秘密の発電所

日本的な風景と、発電所という組み合わせ。
こういう組み合わせの不思議が、安房直子さんの作品にはありますね。

そして、最後に、お手玉でおわるという。
いい風景だ。

オリオン写真館

読んでる最中は、いいかげんなオリオンにすごく軽いものを感じていたのですが、読み終わって、実は、これって、すごくリアルな話なのではないかと思ったりもしました。

なんだか、こういう生き方をした写真家って、本当にいそうだと思いませんか?

そして、その写真家は、星のなかに人を、人のなかの星を見つけたんです。
そんな気がする。

海の館のひらめ

テーマが、前面に出ている安房直子さんにしてはめずらしい作品。
その分、実は、ちょっとドラえもんのような安易さがあると思ったりもします。

まあ、のび太くんは、努力しない人なので、この主人公とはちょっと違うか。

でも、エッセイを読むと、安房直子さんは、この作品をかかなければならなかったんだなぁということがよくわかる気がします。

ふしぎなシャベル

夢オチ?とも思えるような、不思議な感じの話なのですが、1つ1つのイメージに、意味をつけていくことも可能のような気がします。

たとえば、スコップでほっていくと、おもちゃがいっぱい出てくるシーン。実は、ほっているのは地面ではなくって、記憶ではなかいと思ってしまいます。

そして、1番すごいと思ったのは、シャベルをおいて帰っちゃうところですねぇ。
その欲のなさが、実は、安房直子作品の透明さにつながっています。

海の口笛

人さらいの話だ(笑)
いや、ちょっと違うか?

こういう、どこかアヤシイお話は、やっぱり好きです。

「そこ」にしか、本当に幸福はなかったのか?
それは本当に幸福なのか?

という疑問は、どうしても残ってしまうのですが。
それでも、わたし自身も、そんなふうに連れて行って欲しいと思う気持ちもあるのでしょう。

ただ、その時の現実の生きづらさというのは、心のトゲとして残しておかなければならないと思います。

南の島の魔法の話

「あんたの味方は、もう妖精だけだよ。」

そういう恋もあるのだなぁと。恋は、盲目といいますから。
でも、その時、不思議と孤独感はないんだろうなぁ。

「しかたないさ。結婚していっしょに暮らすとなったら、どっちかがどっちかの大きさになるしかないさ。」

わたしのピアリピアリは、見つかったかな。

だれにも見えないベランダ

行って帰ってこない話。
実は、こういうお話にも、すごく惹かれます。

帰ってこない限り、彼らの物語は終わってないのですから。

エッセイ

母親の思いの話は、すごく共感しました。
やっぱり、わたしに子どもがいても、同じように育てるのだと思います。